パソコン仕事をしていたら、入口のカフェスペース入口の蔵戸がするするっと開いた。
そこには男の子が立っていて、こう言った。
「ここってカフェですか?」
カフェスペースであってカフェではない、と事情を説明すると、「そうなんですね。前から気になっていて、今日仕事休みだから寄ってみたんです」
そのうち営業始めたらぜひ来てね。こんなふうにやってくる人がたまにいて、いつものように説明したが、ちょっと思い立って話をつづけた。
もしよかったらコーヒー飲んでく? サービスするよ。
彼は「ホントですか、いいんですか」と言いながら、じゃあお願いしますと入店した。店じゃないけど。
自分用と二人分のコーヒーを入れながら話を聞いた。
すぐ近くに家族で住んでいて、生まれたばかりの2か月の赤ちゃんがいるらしい。どこかでお茶しようと思うと駅方面に行くしかなく(最寄りのたまプラーザ駅は小洒落たハイソタウンだ)、どのカフェもざわざわしていて本を読みたいけれど集中できないんです、と彼は言った。
へえ、2か月かぁ、可愛いでしょ。でも旦那さんが休日にカフェで本を読むことを許してくれる奥さんって、なかなかいないよね。
彼はにっこりと微笑んだ。
読書の邪魔をしないように話を早々に切り上げてしばし仕事を続けたが、そういえばパソコンの部品を買いに近くのケーズデンキまで行かなきゃいけない。
ちょっと駅まで買い物行くけど、まだいるなら店番しててくれない? ま、店じゃないけど。
いいんですか、もしあれなら帰ります、と言う彼に俺は構わないよと答えると、じゃあ待ってます。バイクで買い物して帰社。
彼は一時間ほどいただろうか。赤ちゃんを抱いて散歩中の奥さんが迎えに来て、ありがとうございました、と帰っていった。
もしシャッター空いてたらまたおいでよ。奥さんも子育てに詰まったら来るといい。赤ちゃんウエルカムだから。あ、コーヒー300円ね。
ホントですか、また来ます、今300百円払いますという彼に「言ったでしょ、今日はサービス」と笑い合った。
ナイスな若者だったな。また来るかな。
この場所がそんなローカルコミュニティになるのも悪くないな、と思った春間近の昼下がり。